大学編入と教員免許

キャリア

私は私立大学情報系学科から国立大学情報系学科へ3年次編入して、大学の学士課程を通算4年間で卒業しました。そして、大学卒業と同時に教員免許(高校数学一種)も取得しています。

大学編入した場合でも条件を満たせば教員免許を取得することができます。この記事では私が経験した具体的な事例に基づいて解説します。

この記事のターゲット

今回の記事は、以下の方をターゲットにこの記事を書いています。

  • 編入や再入学、通信教育による単位取得を経て、教員免許を取得したい方
  • 上記の経緯により、大学による一括申請ではなく、個人申請により教員免許を取得しなければならない方
  • 教員免許取得で都道府県教育委員会と揉めている/揉めた方

はじめに:私の略歴について

私は冒頭にある通り、私立大学情報系学科から国立大学情報系学科へ3年次編入して、大学の学士課程を通算4年間で卒業しました。

編入に関する詳細(編入試験~卒業までの一通りの流れ)は以下の記事で詳しく説明しています。

元々、私は中高の教員になろうと考えて私立大学の情報系学科へ入学したのですが、1年目の終盤に以下の事実を知ることになりました。

・入学した大学の教員採用試験の合格率が低い(免許があっても、教員採用に合格しないとダメ)
・それに加えて、民間企業への就職実績があまり良くない(有名企業が軒並みない)

さらに、大学や学科には企業から求人票(いわゆる推薦枠で採用試験が受けれますよという連絡)が届くのですが、

・自分が所属する大学及び学科の求人票においても有名企業が皆無

であることもわかりました。

有名企業には採用枠の80~90%が理系の推薦枠で占めているところも少なくないですから、理系学生にとって求人票が大学や学科に届いていること。さらには、推薦権を勝ち取るための学内選考は非常に重要になってきます。

このような経緯から、私は中高の教員になることを断念し、就職活動で有利になるであろう国公立大学への編入を決意しました。(学費節約などのメリットも狙っていましたが、それらについては上記の記事で説明しています。)

はじめに:教員にならずとも、教員免許はあきらめきれなかった

私は某国立大学の編入試験に合格したわけですが、教員の道をあきらめたとはいえ、大学1年~大学2年前期までの3学期間に、教員免許を取得するための単位を多く取得していました。

つまり、多大な時間的・金銭的コストを費やしていたということです。(講義の勉強は大変でしたし、教科書代もそこそこしました。更には、休日開講の講義も受けたりしました。)

この時点で教員になる気持ちはほぼなかったのですが、せっかくなのでこれまでの労力と努力を形にしたい(教員免許だけでも…)と思いました。

そのような思いから、編入試験合格後に(ダメもとで)編入先の大学事務に「自分はそちらの〇〇学科へ来年度に編入するが、2年間で教員免許を取得することはできないか?」と相談してみました。

すると、大学事務からは「できるかもしれない。現在の履修状況と現時点の証明書を送ってほしい。」と回答があり、やり取りが始まります。

こうして、私は大学編入を経て教員免許を取得していくことになります。

大学編入の教員免許取得①:課程認定と教職課程

教員免許の制度について、説明します。まずは、課程認定と教職課程です。

大学は文部科学省へ課程認定を受けることで、「大学内で教員免許取得のための講義や実習を開講し、学生に単位を与えることができる」ようになります。

前述のような課程のことを、一般に「教職課程」と言うと思います。

(課程認定に関する詳細は、文部科学省「課程認定制度について」などに書かれています。)

課程認定教職課程は、学科ごとに対して、教員免許の区分(幼稚園)(小学校)(中学校・高等学校 × 教科)etc. ごとに行われます(あります)。

私の所属した学科の教職課程は以下の通りでした。

・(編入前)X大学〇学科:小学校+中学数学+高校数学+高校情報
・(編入後)Y大学〇学科:高校数学+高校工業

編入前と編入後で「高校数学」が被っていましたので、編入後も必要な単位をそろえることで「高校数学」の教員免許=高等学校教諭一種免許状(数学)を取得できるということになります。

大学編入の教員免許取得②:学力に関する証明書と必要な単位

編入前と編入後の学科の課程認定では「高校数学」が被っていましたが、「編入後も必要な単位」はどのように判断するのでしょうか?

何なら、編入前と編入後の学科で開かれている講義の名称は異なっていることがほとんどです。大学によってシラバスの様式もまちまちです。

つまり、「自分が足りない講義(単位)」は分からないように見えます。

そこで登場するのが「学力に関する証明書」です。

「学力に関する証明書」とは、教員免許の申請の際に申請書に添付する証明書です。各都道府県の教育委員会はこの「学力に関する証明書」を見て、必要な単位が足りているかを判断します。(証明書には単位数か取得済みかどうかが記載されるだけで、成績までは記載されません。)

以下の画像は私が取得した高校数学の「学力に関する証明書」の抜粋です。

「教育職員免許法」に基づく各項目と、各項目に対応する単位の取得状況が一目でわかるようになっています。

基本的に「教育職員免許法」に基づく各項目で定められた単位数を取得していると、「確認欄」に〇が付きます。〇が付いている項目はこれ以上単位を取得しなくてもよいという意味です。

つまり、「確認欄〇が付いていない項目について必要な単位数を取得していけば、免許を取得することができます。

大学編入の教員免許取得③:個人申請

教員免許を取得するには、各都道府県の教育委員会(都道府県庁)に申請をしなくてはなりません。

通常の学生は、一括申請の対象となるため特に気にしなくても良いのですが、編入などの特別な事情のある学生は個人申請をしなくてはなりません。

・一括申請:1つの大学で単位を取りきると、大学から大学最寄りの都道府県教育委員会へ一括申請して貰える方法です。必要な様式や書類は個人申請の場合と共通ではあるが、とてもラクです。

・個人申請:上記の条件を満たさない場合に、個人が都道府県教育委員会へ申請する方法です。申請先は任意のため、大学所在地や地元を選択できます。

自分は、個人申請の申請先を地元にしてみました。

大学編入の教員免許取得④:揉めた個人申請(自分&大学事務vs教育委員会)

私は個人申請に先立ち、申請予定先へ申請が通るか照会をするのですが、教育委員会と大揉めすることになります。自分を含めて登場人物が3者(組織)になりますので、整理していきます。

大学編入の教員免許取得④-1:登場する人物/組織

・自分

【大学】
・A→編入後大学(事務)※自分の味方

【教育委員会(都道府県庁)】
・B→自分の地元都道府県教育委員会(実際には都道府県庁が対応しています)
・C→大学のある都道府県教育委員会(実際には都道府県庁が対応しています)

大学編入の教員免許取得④-2:いざ個人申請!事前照会してみる。

私は編入後の大学事務(A)の履修指導のもと、教育実習をはじめとする不足している単位を修得して、4年生の秋ごろに、地元の教育委員会(B)へ単位数が足りているかの事前照会を行いました。

単位数の確認方法は簡単で、「取得したい校種・区分の教員免許の名前」と「学力に関する証明書」2部を送って、申請が通るかをメールで教育委員会へ照会するだけです。

個人申請とは言えども、大学事務(A)が全面的にサポートしてくれました。

しかし、メールでは「あなたの単位数は足りません。」の回答。

詳細が記載されていないので、大学事務(A)に今後のアクションを相談したところ、大学事務(A)から教育委員会(B)へ確認をしてくださいました。

大学編入の教員免許取得④-3:どこで揉めたのか?

教員免許の取得に必要な単位は大きく分けて、

(1)教科に関する科目:数学や理科の専門的な講義
(2)教職に関する科目:〇学科教育法や教育実習をはじめとする教職分野の講義
(3)教育職員免許法施行規則第66条の6に定める科目:英語や日本国憲法などの一般教養系の講義

の3区分に分かれます。

理系学科に在籍する方が教員免許を取得する場合は、

(1)(3)→卒業要件を満たすと、自動的に必要単位数が満たされる。
(2)→教職に関する科目が卒業要件には入らないので、通常の履修単位数の倍を受講することになる。シンドいです。

以上のケースに当てはまることがほとんどだと思います。そして、(2)の負担が大きいことから教員免許の取得を断念する方も多いのではないかと思われます。

しかし、一部の大学の課程認定では、(2)でとるべき単位数を(1)の単位数で置き換えることができる、教育職員免許法の特例を採用しているところがあります。

ここの特例の法解釈について、揉めたということになります。

大学編入の教員免許取得④-5:教育職員免許法の特例とは?

教育職員免許法の特例とはズバリ、「教育職員免許法 第5条第1項別表第1 備考第5号」です。

(法改正が行われているため、記事作成時点では「備考第5号」でしたが、私が申請をした時点では「備考第9号」でした。)

教育職員免許法とは我々が教員免許を取得することができる法的根拠であり、どの教員免許・教育委員会・大学もこの法令に従っています。

2024年3月時点の「教育職員免許法 第5条第1項別表第1 備考第5号」をE-GOV法令検索から引用します。

五 数学、理科、音楽、美術、工芸、書道、農業、商業、水産及び商船の各教科についての普通免許状については、当分の間、各教科の指導法に関する科目及び教諭の教育の基礎的理解に関する科目等の単位数(専修免許状に係る単位数については、教育職員免許法別表第一備考第七号の規定を適用した後の単位数)のうちその半数までの単位は、当該免許状に係る教科に関する専門的事項に関する科目について修得することができる。この場合において、各教科の指導法に関する科目にあつては一単位以上、その他の科目にあつては括弧内の数字以上の単位を修得するものとする。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329M50000080026_20230925_505M60000080030

出典:E-GOV法令検索・「教育職員免許法 第5条第1項別表第1」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329M50000080026_20230925_505M60000080030

要するに、(2)でとるべき単位数を(1)の単位数で置き換えることができるというわけです。
ただし、「その他の科目にあつては括弧内の数字以上の単位を修得するものとする。」の条件は満たさなければなりません。

また、この特例は出身大学を問わず用いることができるとも言えます。その場合、特例を前提としない課程認定のある大学の出身者がこの特例を使うには個人申請しなければなりません。

大学編入の教員免許取得④-6:揉めた件をまとめると、、、

実は、大学(A)の理系学科においては、この特例による免許取得を前提とした教職課程が設置されていました。

最も、大学は文部科学省へ課程認定の申請を通しています。課程認定には教職課程の内容も含まれているので、特例の適用は正しいのは公然の事実でした。

当然、編入者の自分にもこの特例は使えるので、(逆に言うと、使えない理由がなかったので、)「この特例により免許を取ろう!」という経緯だったわけです。

しかし、先ほどの教育委員会(B)への事前照会における回答では、「教育職員免許法 第5条第1項別表第1 備考第5号」の存在自体を認識していなかったような回答をしていたのです。

さらに、その後やり取りを続けていく中で、教育委員会(B)は「備考第5号」の利用を認めるも、「その他の科目にあつては括弧内の数字以上の単位を修得するものとする。」の但し書きの部分の適用を認めない(要は、括弧内の数字以上に単位を取っているのに、通常の単位数まで取らないと免許は出せないという主張)という回答に発展しました。
(これは、一定の条件のもと単位数の置き換えを許す、という法律の趣旨を理解していない主張です。)

話を要約しますと、、、

・一括申請、個人申請いずれにせよ、同じ法的根拠(教育職員免許法)に基づき免許が交付される。
・教育職員免許法には、免許取得の負担を軽減するための特例(備考第5号)が存在している。
・大学(A)のとある学科では、特例による免許取得を前提とした教職課程が設置されている。
・当然ながら、前述の大学では特例を用いた免許交付の実績がある(一括申請)
一括申請ではOKなのに、個人申請ではNGなのはおかしいのでは?

ということになります。

(「一括申請でも同じような問題が起きるのでは?」という質問については、大人の事情により解説を省略させていただきます。)

大学編入の教員免許取得④-7:大学事務は既に争い、そして勝っていた

大学事務(A)は自信をもってこの方法を私に勧めていたのには理由がありました。

それは、私が大学事務(A)にお世話になる1年前にも同じケースで別の教育委員会(D)と揉めていて、勝っていたからなのです。

具体的には…

・大学(A)のある学生が、別の教育委員会(C)へ個人申請した。
・教育委員会(C)が却下。理由は教育委員会側の「備考第5号」の但し書きの適用を認めなかったため。
・大学事務(A)が教育委員会(C)へ抗議。
・埒が明かないので、大学事務(A)が教育委員会に学生に仮免許を交付させ、文科省へ照会。
↓(数か月後)
・文科省が大学事務(A)に軍配を上げる。(完)

というやり取りがあったそうです。

大学編入の教員免許取得④-8:完全☆決着

大学事務(A)から、「上記の事例で既に他の都道府県の教育委員会(C)に勝っている。文科省に問い合わせたらそっちが負けますよ?」という旨を、教育委員会(B)へ伝えていただくも、それでも免許は交付できないという回答のままでした。

一方で、どの都道府県の教育委員会が交付する教員免許も法的な効力は同じですので、私はとりあえず教育委員会(C)へ申請することに決めました。

すると、教育委員会(B)から「今後はどうされますか?どこへ申請されますか?」というメールが私のもとに届きます。

どうするもなにも、教育委員会(B)に申請するしかないでしょwwww?という返事をするしかないですし、何なら、返事をしてやる義理もありませんからね。(大学事務(A)はゼロ回答してくれていました。)

返事してやるか迷ったのですがしょうがないので、

「当該特例に関する法解釈をめぐって既に大学事務(A)と教育委員会(C)で決着がついている状況ですので、このままですと、教育委員会(C)へ申請せざるを得ません。」

と回答しました。

すると、約2日後に教育委員会(B)から免許を交付できるという回答がありました。

そのため、当初の予定通り教育委員会(B)へ教員免許の申請をすることにしました。

(詳細を聞いたところ、教育委員会(B)から教育委員会(C)へ照会を行った模様でした。さっさと照会したらいいのにすごく消極的ですよね。。。)

大学編入の教員免許取得④-9:そもそもの話。

そもそも、なぜ教育委員会(B)や教育委員会(C)が中々折れてくれなかったのでしょうか。

それはおそらく、これまでに多くの個人申請者を返り討ちにしてきたからだと推測されます。

返り討ちとは、教員免許取得に足りないとされた1単位のためだけに、もう一年あるいは半年追加で大学に残らないといけなくするということです。

教職に内定を貰ってた人は本当に大変だったろうと思います。余計な学費を払った人や免許取得、最悪のケースでは、教職そのものを諦めた人がいたのではないかと予想します。

小言:教育委員会(都道府県庁)の対応の悪さ

前述の通り、最初は自分と都道府県庁の教育委員会と調整を進めていたのですが、とにかく先方の対応が悪く、そして、不勉強極まりなかったです。

例えば、先の「学力に関する証明書」は、別途の卒業証明書を提出しなくてもよいように、「基礎資格証明書」が併記されていることがほとんどだそうです。(大学が便宜を図って併記するものなので、大学側には併記する義務はない。)

「基礎資格証明書」とは、免許申請者の取得学位や在学期間などの情報が記載されるものです。

「基礎資格」というのは、学歴のことです。より具体的には、二種免許では短大卒(準学士)、一種免許では大卒(学士)、専修免許は院卒(修士)を求められます。
(ここの基礎資格は、学歴を教職の勤務実績で置き換える場合もあります。)

上記の基礎資格証明書については、文部科学省のサイトや、当初申請を予定していた都道府県庁の教員免許取得に関するサイトにも記載されていたのですが、メールでこのことについて尋ねたところ

「基礎資格証明書とは何でしょう?…」などと返されました。

揉めた原因である法解釈の甘さに加え、自部署が運営しているはずのサイトの情報すら把握できていないのは致命的ですよね。

まとめ

大学編入などの事情で複数大学で取得した単位を元に教員免許を取得するには、個人申請をしなくてはなりません。

個別申請では個人の立場の弱さ、都道府県の法解釈の甘さにより、正しい申請をしたとしても却下されてしまうことがあります。

そうならないためにも、正しい法解釈のもとで、教員免許の申請準備を進めることが大切です。

「申請準備」とは、関係各所との調整に他ならなく、「教員免許を取得するには、現状では何が足りていないのか?(主に必要な単位や課程認定上の情報)を大学・教育委員会に確認・照会し、適切な履修指導を受ける」ことです。

なお、教育職員免許法は頻繁に改正が行われているた注意が必要なのですが、この際に大学事務が味方に付いてくださると本当に心強いです。

自分の場合は、大学事務(A)が編入前の大学にも色々と確認をしてくださいました。その中で、編入前の大学の発行する学力に関する証明書に不備を見つけていただいたりもしました。本当の本当に感謝しかありません。

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